原題は TOVE JANSSON : Ord, bild, liv by BOEL WESTIN 2007
ソフィア・ヤンソンも使う決定版
『少女ソフィアの夏』のモデルでもあり、トーベ・ヤンソンの姪で、ヘルシンキのムーミン・キャラクターズ社のディレクターでもあるソフィア・ヤンソンさん。
「インタビューを受けた時など、この本を開いて確認する場面もある」と言うほど、トーベ・ヤンソンの評伝として決定版といえる一冊でしょう。
そのかわり、写真やイラストのカラーページは巻頭のみで、あとは本文630ページの大ヴォリューム。
トーベの手帳とペン
本の筆者、ボエル・ウェスティンは、トゥーティーにこの本を捧げています。
トゥーティことトゥーリッキは、トーベの人生の伴侶でもあり、本書のためにプライベートな話も含めて、資料を裏づける膨大な情報を提供しています。
それだけに、トーベの日記や手紙をはじめとする個人的な記録やメモ、といったトーベの生の声がふんだんに盛り込まれています。
どこを読んでも面白い
たとえば「島での暮らし」の章。
「風力六、雨。ボートを引き揚げるのが精一杯。海は荒れに荒れ、波は大砲のようだ。テントはズタズタに破れた。驚くほどの美しさだ」
そこでは、トーベの迫真の描写とワイルドさに出会えます。
「今夜初めてブレッドシャール島でひとり、テントで寝ます。蚊帳の向こうでは、風の強い紫色の海を背景に、ガンコウランや松の枝が、信じられないくらいに美しいレースのように浮き出ています。」
「まぶたに焼き付くような赤く大きな三日月が、海から動物の角のように昇ってきます。いつもサンシャール島から見えていた灯台は力強い光を放ち、この八月の暗闇の中で親しげに輝いてくれます。そして、ここに私の家があるのです。」
トーベはストーリー・テラーですが、最大の魅力は、やはり子供の頃から馴染んでいる自然・・・海岸、浜、ボート、島、嵐などの描写。
それから、自分の島を持つこと、灯台への憧れ、島での雨、風、嵐・・・
それらが『ムーミンパパ海へいく』では、圧巻の迫力を生み、『たのしいムーミン一家』では、島の経験そのものが物語になっています。
2冊の伝記本を比較してみると
トーベの伝記本としては、もう一冊、トゥーラ・カルヤライネンによる「ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン」があります。
こちらも分厚い本ですが、上質の紙を使って、数多くのイラストや写真をオールカラー印刷でのせています。そのため、文章はページ数ほど多くなく、カラー作品も存分に楽しみながら読みすすむことが出来ます。
本に登場する人物の背景や、トーベとの関係性、作品の時代背景などについては、こちらの伝記本はとても分かりやすく、オールカラー印刷のビジュアルも魅力。
左:373ページ 右:630ページ
★ビジュアルで読むならこちらの伝記本
merimaa88-tove.hateblo.jp
一方、ボエル・ウェスティン の「トーベ・ヤンソン 〜 仕事、愛、ムーミン」は、カラー印刷は巻頭のみ。本文630ページの膨大な資料とエピソードから、トーベの生の声とメッセージが聞こえてくるような一冊。
本の最初から最後までたっぷりと、アートについて、色彩について、島や自然について語られる豊かさ。
ムーミンシリーズをはじめとする膨大な作品の背景に、これほど浸っていられる本は、そうそうないのではと思えます。
お互いがおぎなう形でトーベを語っていく2冊の伝記本なので、ほとんど重複する部分はないといえます。
値段的には、なかなか買うのをためらいますが、誕生日とかクリスマスとか、この本を欲しがってるトーベファンにはぜひ、プレゼントしてあげてください。
どちらがおすすめって・・・?
片方を読んだら、もう一方も読みたくなります。
そんな2冊です。