『週刊ダイヤモンド』 なぜ日本女子は北欧好きなのか
なぜ、ムーミンは日本で人気なの?
スウェーデン系フィンランド人の画家であり、作家であるトーベ・ヤンソンの生み出した「ムーミン」は、日本ではアニメ化されたこともあって、なじみのあるキャラクター。
2014年には、トーベ・ヤンソンの生誕100周年を記念した展覧会が各地で開催された。
フィンランドのヘルシンキに本社のあるムーミン・キャラクターズ社。
ここでは、トーベの姪であるソフィア・ヤンソンが、クリエイティブ・ディレクターと会長をつとめ、北欧のキャラクター「ムーミン」を管理している。
インタビューに答えているのは、ソフィア・ヤンソンの夫であり、マネジング・ディレクターのクラクストロムさん。
現在、ムーミン・キャラクターズ社の売り上げは、この10年で6倍近くに上がり(約5億ユーロ)、その4割以上が日本。それだけ日本では、ムーミン人気(北欧人気)が高い。
しかし、ここまで売り上げが伸びる背景には、驚くような決断と、復活劇があったという。
『週刊ダイアモンド』の記事は、その背景をインタビューしていて興味深いものだった。
「ムーミンは「アート」としても通じる希有な存在
「10年前まで、われわれは過去の作品に依存し過ぎていました。この構造を変えるため、2008年に痛みを伴う改革をしたのです。」と、クラクストロムさんは語る。
それは、日本の根強いムーミンファンをいったん ”捨てる” という選択だった。
日本でのムーミンは1969〜72年、その後の91年のテレビアニメによってイメージが定着し、ファンが増加していったという経緯がある。
しかし、アニメの再放送などに依存している状態が長かったため、日本での人気は世界シェアの30%を切るなど、目に見えて落ち始めていった。
日本でアニメ化されたムーミンには、原作とかけ離れた設定があったり、またソフィア・ヤンソンが「トーベが描いたものでないムーミン」が出回ることを悲しんでいたこともあり、『経営のコアをトーベのアートに絞る』という決断をしたのだという。
この決断は、各国のムーミン関係者に大きな打撃を与え、日本ではアニメのムーミンが、商品に利用できなくなることを意味していたので、そのことへの抵抗も大きかった。
しかし、それは、ムーミン・キャラクターズ社の確実な戦略でもあった。
ムーミンは数あるキャラクターの中で「アート」としても通じる希有な存在、ということを、最前面に押し出したからだ。
『ムーミン谷の夏祭り』 1954年
日本で人気が復活したのは予想外
北欧デザイン人気などによって、フィンエアーなどは、一時期フィンランド国内より日本支店の売り上げが高くなったほどだった。ヘルシンキ乗り換えの欧州便も人気がある。
そういったブームによって、北欧デザインに関心の高い日本では、『アートとしてのムーミン』はすんなりと自然に受け入れられた。
トーベ・ヤンソンは、画家、作家であり、多岐に渡って制作を続けた芸術家。
その作品は、生涯を通して北欧の自然と深いつながりがあり、単なる子供向けキャラクターにはない価値観を持っていることも、むしろ受け入れられた理由という。
「正直なところ、日本で人気が再燃したのは驚きでした」とクラクストロムさんは語る。
「アートを中心にしたことで、展示会にたくさんの記者がおとずれ、映画監督なども関心を持ってくれるようになりました。だから今は広告も打っていません。」
広告費が減った一方で、売り上げはこの10年で6倍近くに伸び、しかも、いったん ”捨てる” 覚悟だった日本での再人気は以前を上回っている。
厳しい自然環境が生み出したもの
私自身、トーベ・ヤンソンの作品に触れたきっかけは、14才のころ読んだ翻訳されたばかりの「彫刻家の娘」と、ペンギンブックスのペーパーバックだった。
アニメとなったムーミンを見る年齢でもなかったので、アニメは見ていない。けれど、日本のお茶の間サイズに様変わりしたムーミンからは、ペーパーバックの原画にあった北欧の自然のワイルドさは消えていた。
インタビューの最後に、「日本は、素晴らしいモノが作れるのに、物を輸出していくのが、すごくすごく苦手なのは知っています。・・」とクラクストロムさんが語ったことは印象的だった。
「冬の夜に技術者たちは家にこもる。そうした厳しい環境から、家の中でも楽しめるゲームや物語、デザインが生まれてきた。」
『週刊ダイアモンド』では、家具のイケア、ファッションのH&M、玩具のレゴ、ノキア、スカイプ、音楽配信のスポティファイ、エリクソン・・・などを紹介している。
「続々と生まれる技術やアイデアのキーとなるのは、北欧の長く寒い冬。」
「ムダを極限までそぎ落とし、世界中の誰もが楽しめるシンプルなデザインは、厳しい自然環境の下で編み出されてきた。」
日本は、気候が温暖なために、むしろ一年中、建設・開発工事に明け暮れることができる。そういった環境が、デザインや自然・景観保護から遠ざけるのかもしれない。
昭和のムーミンアニメの高度経済成長の時代から、アートを中心とした現在に至るまで、日本は受け手として与えられたものを買うことには、たいへん熱心な国民性。
木の製品を愛する日本と北欧には類似性がある、ムダを削ぎ落としたデザインが日本人の感性に合う・・・と言われつつ、実際には北欧の生活スタイルに憧れるだけで、暮らしに根付いていくことがないのを不思議に思う。
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